秀808の平凡日誌

第19話 部外者

「クックック・・・後は任せたぞ。私はこれから照準を定めねばならんのでな・・・」

 そして、『グングニール』とメキジェウスの乗っている高台が浮遊し、上昇していく。おそらくは、地上にでるためだろう。天上に穴が空き始めている。

「・・・逃がさんぞ!メキジェウス!・・・レクル、キャロル、私についてこい。ミーシャ、ラベル、レーシェルはその天使兵を倒しておけ!」

 そして、ファントムはレクル、キャロルを連れ、地上に続く螺旋階段を上っていく。

 それをみて、アシャーが叫ぶ。

「ロレッタさんとラムサスさん。それにレヴァルさんはメキジェウスの後を追いかけてください!私はあの3人の支援に回ります!」

「わかったわ!」

 そして、彼女らもファントムたちに続いた。

 その様子を見ていたレーシェルがアシャーに愚痴をこぼした。

「へっ!あんな奴等で大丈夫なのかぁ?」

「大丈夫ですよ、すでに天界に救援要請をしてあります。」





 空はもう光り輝く星空が広がっていた。

 上昇するスピードはかなりはやく、もう地上にでてしまっていた。

「・・・フッフッフ・・・あとはエネルギーは最大まで溜めれば、発射準備は完了・・・」

 こんなにあっけないものか、とふと口元に笑みを浮かべるメキジェウス

「・・・クックック・・・ハーーーッハッハッハッハッハ!!」

 そのとき、すぐ近くから声が聞こえた。

「そこまでだ。」

 驚き、声のした方向を見直すメキジェウス。

 向いた方向から、『ワープポータル』を通じて自分と同じ天使達が見える。

「・・・なんだ?貴様等?」

「メキジェウス大天使、貴様が今『REDSTONE』の力を悪用し、人間達の住む『古都ブルンネンシュティグ』を破壊しようとしているのはすでに我等の手の内だ。今すぐにそれをやめ、『REDSTONE』をあの者達に渡してもらおう」

「・・・なんだと?」

「尚、この交渉に応じなかった場合、我々は力づくで『REDSTONE』を奪うほかない。そちらの返答をお聞きしたい。」

 考えるまでもないことだ。

「・・・貴様達に何の用があるのかは知らんが、今の私には『REDSTONE』の力が必要だ。だから渡すことなどできんな。」

「そうか・・・なら仕方が無い。やれ」

 先頭にいた天使がパチン、と指を鳴らした途端。メキジェウスの両手両足を光の帯が包み込んだ。

 天使達の間では基本的な束縛呪文『ホールドパーソン』である。

「くそっ!放せ貴様!私を誰だと・・・」

 そう言った矢先、先頭の天使が部下に持たせていた槍を手渡すよう命じた。

 その槍の形状には、メキジェウスにも見覚えがあった。

「その槍は・・・神槍ロンギヌス!?何故貴様が・・・」

「まだ、我がわからないか?大天使メキジェウスよ」

 その声の主に記憶を探っていると、ある一人の天使が浮かび上がってきた。

「まさか・・・天使長アズラエル!?」

 かつて起きた天上界と地下界での大戦争。

 その最初の戦陣で鬼神のごとく戦場を駆け巡り、約1000匹にも及ぶ悪魔達をその槍で打ち倒したといわれる天使。

 それが今ここにいる男。天使長アズラエルである。

「天界物無断輸送の罪と、反逆罪において・・・大天使メキジェウス、貴様を抹殺する」

 言い終わると同時にアズラエルはその翼を広げ、瞬く間にメキジェウスへと迫る

 一瞬の閃光が駆け抜けた刹那、メキジェウスの体にはいたるところに穴があけられていた。

 心臓と頚動脈。人の急所といえる急所を、あの一瞬で貫いたのだった。

 メキジェウスの体が力無く倒れこんだそこへ、ファントム達があがってくる。

「・・・なんだ、あいつらは・・・メキジェウスは?」

 ファントム達に気付いた天使兵が、その返答を口にする。

「彼なら、死にましたよ」

「・・・なんだと?」

 アズラエルが『REDSTONE』を拾いながら言う。

「・・・彼がそのまま『グングニール』を発射していたなら、古都の人間達だけでは死人は済まされなかった・・・だから発射する前に、殺したのだ。」

 レクルが、その言葉に疑問をぶつける。

「・・・『古都の人間達だけでは』って、どういうことだ・・・?」

「今、この世界は『REDSTONE』が長年あったせいで、火の元素の割合が非常に高くなっている。そして、『REDSTONE』の力で『グングニール』を発射した場合、その放たれた『REDSTONE』の膨大な魔力に反応し、地下で静まりかえっていたマグマが活発的な活動をおこし、世界のあらゆる場所からマグマが噴き出す。それと同時に、地下の更に奥深くに眠っていた悪魔達も目覚めることになっていた」

「・・・そんな重大なことになるかもしれなかったというのか・・・私の行動は・・・」

 それを聞き、ファントムが恐怖する。

「・・・」

 アズラエルが、『REDSTONE』を持ちながら、こちらに歩み寄ってくる。

「『REDSTONE』はお前達に返そう。あとはお前達が、同じ過ちを繰り返すのか、そうでないのかは、お前達に任せる。」

 そして、ファントムに『REDSTONE』が手渡される。

「・・・それをどうするか、返答をお聞きしたい。」

 『REDSTONE』を見ながら、ファントムはつぶやく。

「・・・私のしようとしていたことは、大きな間違いだと知った・・・この、過ちを繰り返さないためにも、私はこれを天上界へ返そうと思う。」

 そして、アズラエルは納得したようにうなづくと、部下に言った。

「・・・帰るぞ、皆。十分な返答を、聞くことができた。」

「・・・了解」

 そういうと、部下の一人が青い色をしたスフィアーをとりだした。

 それは、スマグのウィザード教会でのみ販売されている『ポータル・スフィアー』と呼ばれるものだった。

 ワープポータルを開き、中に入っていく。

 ファントム達は、その後姿が消えるまで、見送っていた。


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